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男はメールの指示に従い、マンションの屋上に上がる。
分厚い鉄の扉を開け、高所に吹く強い風が肌を打つ。
ガンッ
「…ん?」
突然男の足元から、中身の詰まった重い金属の落下音が聞こえた。
足元を見遣ると黒くて丸い物体が
一点だけ生やした導火線から火花を散らせていた。
あまりに古典的な外見から、男はそれが何なのか思考してしまう。
間に合わず、それは爆ぜた。
しかしそれの爆発は何の衝撃も伴わず代わりに発生し瞬く間に膨張した煙が男を包んだ。
どさりと音を立て、男は倒れた。
その表情は先程の緊迫したものと違い安らかで
大きくいびきをかいている。
それを見た少女は邪魔者の存在を見回し探す。
「そこで終わりだ、ゴースト。」
言葉が聞こえたのは男が上って来た階段の屋根の上
給水塔の上に佇む中性的な顔立ちの少年と傍らに更に幼い少女
紺色のポンチョを羽織った少年の手には
現代日本で所持していれば銃刀法で裁かれるような長剣
しかしその長剣の塚には何かの動力のような機械部品が埋め込まれており
SFとファンタジーが混ざったような世界観を思わせる。
-彼等はこういった特殊な兵器を詠唱兵器と呼ぶ-
幼い少女も同じように動力機関の埋め込まれた和弓を構えた。
更に場違いなことに二人は鎌倉の有名な学園の制服を着ており
常識では考えられない状況を一層際立たせている。
「貴方達…何?」
咽に穴の開いた少女が二人に問う。
「銀誓館学園の能力者…お前等の天敵と思え。」
恐らく咽に穴の開いた少女もこの二人の名乗る能力者という存在は知るはずもない。
彼女はいつどうしてこうなったのか記憶も思考も曖昧だからだ。
しかし本能から思考に訴えられる
この二人は危険だ、この二人に殺されれば 今度こそ 消滅すると
「キ……ィアアァァァァァァァァアアア!!!!!」
悲鳴のような雄叫びを挙げながら咽に穴の開いた少女は下半身を蛇へと変えていく
長剣を構えた少年が給水塔から跳び降り咽に穴の開いた少女が変異した『それ』に駆け出す
「ギイイイィィィィィイイ!!!!!」
『それ』は咽の穴からガラスを針で引っ掻くような音を発し衝撃波を放つ
しかし少年は屋上のタイルの溝に剣を突き立て
梃子の原理と外見から想像できない膂力で一枚タイルを剥ぎ取り
それを盾にする。
タイルは衝撃波に耐え切れず一撃で崩れ去る。
しかし『それ』に二発目を放つことは出来なかった。
「させません…」
幼い少女が和弓から放った光を帯びた矢が『それ』の咽に突き刺さった。
更に矢が帯びた光が『それ』に更なる苦痛を与える。
-破魔矢、土蜘蛛の巫女と呼ばれる能力者が放つ事が出来る浄化作用を持つ矢を放つアビリティである-
咽に突き刺さった矢を抜こうとそれはあがくが矢に触れた指が浄化されるので触れる事が出来ない
「無駄じゃ、我が巫女の破魔矢は抜けん。」
突如、それの背後からも声が聞こえる。
振り向けば下の階のベランダと隣の電柱の間に巨大な蜘蛛の巣
そして襲い掛かる巨大な鍵爪
ガキュッ…という音と共に『それ』の身体がえぐられる。
軽やかに降り立ったのは破魔矢を放った少女と同じ歳くらいの少女。
しかしその右腕には身長に不釣り合いな大きさの異形の腕鎧が纏われていた。
「かけらも残さず燃え尽きるがよい。」
腕鎧の少女にえぐられた傷痕から凄まじい妖気の炎が燃え上がった。
『それ』は今度こそ悲鳴を挙げながら炎を払おうと暴れ出す
今まさに、ポンチョの少年が零距離まで迫ったことにも気付かずに
「死に血を啜れ…黒影剣…!!」
少年が振りかぶる剣の刀身に漆黒の闇が纏われる。
-黒影剣…魔剣士と呼ばれる能力者の使う生命を啜る漆黒の闇を纏った剣技-
瞬 断
少年の一撃で『それ』は同から上半身と下半身に瞬断され、脳から離れた下半身は銀色の粒子となって消滅する
「………ギィァアアアアアアア!!!!」
しかし、『それ』は最後の力を振り絞るように凄まじい速さで腕を這わせ動き回る。
恐らくはよほどの執念があるのだろう、向かう先は眠る男の喉元
「…させるかっ!!!!」
予想外の動きに驚きつつも少年は振り向き月明かりが作り出す自分の影に長剣を突き立てた。
影が膨張し、形態が二次元から三次元へ…巨大な腕となって『それ』に迫る…
…しかし間に合わない、『それ』は両手を地面に叩きつけ男に跳びかかる
「…………ごめん!遅れた!!!!」
男の後ろ、階段の下からもう一人、ポンチョの少年と同じ歳くらいの少女が飛び出す。
燃えるような赤いセミロングの髪の少女はカードを取り出し、唱える。
「……イグニッション!!!!」
赤毛の少女が唱えると同時にカードが銀色の粒子となって分解、その腕に纏われ彼女の武器を生成する。
それは小手、その手の甲に動力機関が搭載されておりそこから伸びる様に刃が生えている。
小手を纏った赤毛の少女の拳が『それ』の顔面を強打し…ガチャ、と動力炉の撃鉄らしき装置が上がる。
それでも彼女の進みは止まらない、『それ』を拳に貼り付けたまま彼女は突き進む
「フレイム…キャノン!!!!」
ガチン、と動力炉の撃鉄らしき装置が火花を上げて打ちつけられた。
『それ』と赤毛の少女の拳の隙間に、超高温の火球が生まれる
それは先ほどの炎とは質の違う日の光を伴う焔の弾頭、火球は急膨張し『それ』を巻き込んで射ち放たれた。
拳の衝撃に火球の発射速度が加わり『それ』の頭部は完全に粉砕された。
そして、少年の放った影の腕-ダークハンド-が『それ』を包み込みまた少年の影に戻っていく…
『それ』は完全に消滅した。
「遅いぞ、朝霞!」
「んぁう、ごめんよキョーちゃん。電車に乗り遅れたんだよ。」
少年、明石亨-あかし・きょう-は赤毛の少女、朝霞夏鈴-あさか・かりん-に叱責する。
「良いじゃないですか、被害者が出なかっただけ何よりですよ。」
給水塔から降りた幼い少女、新明菜-あらた・あくな-は夏鈴を庇うように京をなだめる。
「…のう、明石よ…」
「…ん?何だ楽音?」
腕鎧の少女、新楽音-あらた・らくね-が亨に問う。
「…これはどうするつもりじゃ?」
楽音が指さした先には亨が盾にしたタイルの破片、夏鈴が放ったフレイムキャノンの炎が散りばめられており戦いの凄惨さを物語っている
「………箒と塵取り、誰か持ってきたか?」
亨の問いにその場に居る全員が首をふった。
次の日…
『先日、某マンションの屋上にて不審火が発生したことにより警察は
屋上にて熟睡していた青年男性を重要参考人として確保、事情聴取に取り組みましたが
青年は「昨夜の事は何も覚えていない」「誰かからメールが来た」等と容疑を否認しています。
青年の所持する携帯電話機は何者かに破壊された形跡があり、詳細を捜査しています…』
ニュースを見ながら、亨は安堵もしくは倦怠の籠ったため息をついた。
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